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 American Thoracic Society Documents

Respiratory Care of the Patient with Duchenne

Muscular Dystrophy

ATS Consensus Statement

This official statement of the American Thoracic Society was approved by the ATS board of directors march 2004.
(American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine : VOL 170, 2004.)

ATSコンセンサスステートメント

背景(BACKGROUND

Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)は、進行性の筋力低下を特徴とする疾患であり、大多数の患者は心筋症を発症する。DMDは、X連鎖劣性形質であり、男児にのみ発症する。DMDは、男児出生の約3000人に1人発生し、ジストロフィン遺伝子の変異に起因する。臨床診断は、病歴および理学的所見で確認し、血清CK値の上昇をみて行う。確定診断は、白血球のDNAで変異の解析を行い、ジストロフィン遺伝子の異常所見により行う。DNAの解析による所見が(1/3の患者でみられるように)正常である場合は、免疫組織学的方法、すなわち筋組織の蛋白を解析して診断を確定する。

DMDでは、呼吸障害は病的状態および死亡の主要な原因であるが、DMDの呼吸障害は治療可能なものであることが十分に認識されていない。近年、DMD患者の呼吸ケアは進歩しており、このためDMD患者の予後は改善している。介入のない従来の方法から、より積極的かつ支持的アプローチに変更した介護者は多い。しかし、DMD患者の家族の多くは、新しい医療機器については、介護に取り入れるようになってきているが、呼吸不全の診断とマネージメントにおけるオプションについては十分な情報が与えられていない。


目的(PURPOSE)

このステートメントは、医療従事者の教育を目的として作成されたものであり、DMDに伴う呼吸器合併症のマネージメントにあたり、役立つ新しいアプローチおよび治療法を扱うものである。このステートメントでは呼吸関連の介入を総説しているが、これらの介入の多くはDMD以外の神経筋疾患にも適応することができる。

方法(METHODS)

コンセンサス委員会の発足

コンセンサスステートメントのための委員会は、20015月、アメリカ胸部医学会American Thoracic SocietyATS)の年次総会で発足した。多くのDMD患者に関わってきた医療機関からDMDの呼吸ケアの専門家が参加して委員会を構成した。また、これらの医療機関は、筋ジストロフィー協会(Muscular Dystrophy Association)が助成する筋ジストロフィークリニックと連携して治療を行うことが多い施設であった。メンバーのほぼ全員が小児呼吸器科医であったが、小児神経科医と看護師が各1名含まれていた。ATSは、2002517日および2003519日にDMD患者の呼吸ケアに関するコンセンサス会議を主催した。以後は、電話会議を開き、委員会メンバーの多くが参加して議論を継続した。こうした議論の内容が本報告書の根幹をなすものである。

専門家コンセンサスの形成方法(Methodologies for Synthesizing Expert Consensus

このステートメントの作成にあたり、該当する文献の批判的レビューを行った。委員会の各メンバーは主題をひとつずつ割り当てられ、Medline により、1966~2003年のヒトを対象とした研究のみ検索して該当する公表文献を詳しく調べた。その後、各メンバーは、レビューの結果について、ATSの2002年総会時開催のコンセンサス委員会、2003年総会時開催の同委員会、以後の電話会議のいずれかでメンバー全員に発表した。メンバー全員で検討し、最終原稿を承認した。本報告書の「コンセンサス」とは、同委員会メンバーの意見の一致を意味する。筋ジストロフィー(MD)を扱った文献は対象患者が少数に限られている場合が多いため、このステートメントで述べる勧告の大部分は専門家のコンセンサスによるものである。したがって、ここで作成された全勧告はコンセンサス・ガイドラインである。

 

DMD患者の評価と先行的ガイダンス(EVALUATION AND ANTICIPATORY GUIDANCE OF THE PATIENT WITH DMD)

DMD患者の評価に関して、勧告の基礎となるプロスペクティブな科学的データはない。そこで、同委員会は、関連文献のレビューを行った。関連文献については本報告書末尾の参考文献に記載してある。レビューを行った結果、ルーチン評価について、すべて専門家のコンセンサスに基づき、以下のような勧告をする。

呼吸機能のルーチン評価

DMDは、筋機能の損失を伴うが、一生涯にわたり徐々に進行していく過程をたどる。呼吸筋が弱化すると、有効な咳を出すことができなくなったり、換気量の低下が生じたりする。このことによって、肺炎、無気肺および睡眠時と覚醒時に呼吸障害を起こすようになる[1]。

これらの合併症は通常、呼吸機能の逐次的評価を注意深く行うことにより予防できる。DMD患者の受診の最適頻度は不明である。DMD患者の呼吸評価には、徹底的な病歴調査、精密な理学的検査、肺機能測定、睡眠時呼吸障害の評価などがある[2]。

大多数のDMD患者は、呼吸器感染によって、咳が長引いたり、肺炎を起こしたりするまでは、有効な咳が出せないほど呼吸筋の筋力が低下したことを自覚しない。医師は、呼吸機能と呼吸筋力の測定値によって、換気や咳の補助の必要性を予測することができる。肺機能障害およびガス交換障害と、呼吸器合併症や死亡のリスクが増大することとの関連について、さまざまな障害レベルの報告がある。ある研究によれば、FVC1L以下に低下した場合、生存期間中央値は3.1年であり、5年生存率は8%であった[3]。依然として、FVC1 L未満という値は、DMD患者における生存率の最も確実な負

 

の予測因子である。FEV1が予測値の20%以下の場合は、覚醒時に炭酸ガス蓄積を伴う[4]。また、動脈穿刺による測定で覚醒時PaCO2が正常範囲でも、生存期間が23年であったという報告がある[5,6]。

勧告(Recommendations)

集学的ケア

・DMD患者は、米国小児科学会が健常児に勧告するのと同じく、プライマリーケア医に定期的にかかり、ルーチンな免疫摂取を受けるべきである。

・DMD患者は各種分野の専門家との関わりを持つべきであり、有用な専門分野として、呼吸器学、神経学、心臓学、栄養学、理学療法、整形外科、精神衛生、睡眠医学、社会福祉が挙げられる。

呼吸ケア

・車椅子使用に至った患者、%VCが80%未満に低下した患者、もしくは12歳になった患者は、以後年に2回、小児呼吸ケアの専門医の診察を受けるべきである。

・ 小児は、DMD発症の初期(4~6歳の間)かつ車椅子生活に至る以前に少なくとも1回は小児呼吸ケアの専門医の診察を受けるべきである。小児呼吸ケアの専門医は、肺機能評価のベースラインを求め、DMDに伴う可能性のある呼吸器合併症について、先行的な医学的ガイダンスを行う。また、治療を強化する必要性について評価する。

・機械的な介助による気道クリアランス療法や人工呼吸療法が必要な患者は、ルーチンフォローアップのために、36ヵ月ごとに呼吸器科医の診察を受けるべきである。

・すべてのDMD患者に対して、手術の前には肺と心臓の評価を行うべきである。

・すべてのDMD患者は、肺炎球菌ワクチンと年1回のインフルエンザ予防接種を受けるべきである。

呼吸機能のルーチン評価

・ 来診ごとに行うべき客観的評価:パルスオキシメトリーによる酸素飽和度(SpO2)FVCFEV1、最大呼気中間流速[3]、最大吸気圧(MIP)、最大呼気圧(MEP)、咳の最大流速(PCF)[8]。

・ 覚醒時二酸化炭素分圧の評価はスパイロメトリーとの併用により、少なくとも年1回行うべきである。可能であれば、このときカプノグラフを用いるのが理想

 

的である。動脈血ガス分析は、DMD患者のルーチンフォローアップに必要ではない。カプノグラフが利用できなければ、静脈か毛細血管から採血し、肺胞低換気の有無を確認するべきである。

・ 肺機能やガス交換に関して、さらに、肺容量、介助による咳の最大流速(assisted PCF)、最大強制吸気量(MIC)などを測定すると有用な場合がある。

・ 閉塞性睡眠時無呼吸、誤嚥、胃食道逆流、喘息などの他の呼吸器疾患の有無について、慎重に患者評価をすること。

・ 移動に車椅子使用が必要な患者には、年1回の臨床検査時の項目として、全血球算定、血清重炭酸塩濃度、胸部X線撮影を含むべきである。

終末期の方針(End of Life Directives)

終末期の方針はDMD患者に対する先行的ケアのなかで重要な部分を占める。DMD患者の診療にあたる医師ら専門家は、人工呼吸器依存のDMD患者に対して生活の質(QOL)を低く評価しているという証拠がある[9]。また、医師ら専門家は、DMDが進行した患者に長期人工呼吸について話をするべきかどうかを判断する際に、患者のQOLに対して医師ら専門家自身の認識を適用することがあるという証拠がある[10]。QOLに関しては、患者と家族が十分な説明を受けた上で、医師ら専門家とともに判断するべきである。医師ら専門家が長期人工呼吸によるQOLが低いと予測する場合であっても、患者と家族に提案するべきであり、これによって患者と家族は長期人工呼吸を考慮にいれることができる[11]。DMDの呼吸不全は徐々に発症する可能性があり、あるいは呼吸器感染に伴った場合は突然に発症する可能性があるため、呼吸不全が発症する前に、人工呼吸に関する教育および緩和のためのオプションを提供しておくべきである。また、患者と家族からQOLに関する意見を積極的に求めるべきである。長期人工呼吸療法を行うことによる家族への影響および経済的な影響について言及し、必要な場合は、法律、宗教、文化の各観点から、このような影響に関する問題を話し合って決断に臨むべきである。稀な例ではあるが、重度の呼吸筋低下をきたした低年齢の小児の場合は、話し合いに参加するには未熟であるため、決断することがきわめて困難である。終末期の方針は、患者、家族および医療ケアチ

ームが参加して確立した内容であること、また、この内容を明確に文書化して緊急時の対応に利用できるようにしておかなければならない。

勧告(Recommendations)

医師らは、患者や家族に対して長期人工呼吸療法などの治療オプションを明らかにしなければならないという法的かつ倫理的な責任を有す。医師らは、治療オプションを提供するべきかどうかの判断基準として、QOLに対する医師ら自身の認識を主として用いることは避けなければならない [10]。

・ 終末期の決断に際し、必ずしなければならないことは、患者と家族に十分な情報を提供するということである。

・ 長期人工呼吸療法を断念した患者には、一般的に容認されている標準的な緩和ケアを行わなければならない[12]

栄養(Nutrition)

栄養はDMD患者の長期的管理において重要である。理想的な体重を維持するために、栄養士がケアチームとともに定期的に関与すると大きな助けになる。というのは、肥満(閉塞性睡眠時無呼吸を引き起こすことがある)と栄養失調のいずれも呼吸の健康状態を低下させるからである。DMDにおける栄養と呼吸筋力に関するデータはないが、他の状況では、栄養失調は呼吸器疾患の増加と関連している。したがって、DMD患者の体重をモニターして理想体重に維持することは医師らの義務である。栄養失調および肥満はそれぞれ、若年成人のDMD患者に共通してみられるようであり、それぞれ患者の約44%に認められる。筋肉と換気機能に及ぼす有害な作用があることを考慮すると、慎重な食事管理によって栄養失調または肥満を避けなければならない[13]。後期DMDに栄養失調が起きる主な理由は、咀嚼と嚥下の筋肉で筋力低下が起きることや協調運動不能が生じることに関係している。また、ステロイドの全身投与は、栄養に影響を及ぼし、骨粗鬆症と肥満のリスクを増加させる可能性があるため、この場合も食事管理を必要とする[63]。また、DMD患者の約1/3は食事中にむせることを訴え、DMDの進行に伴い、誤嚥のリスクが高くなるようである[14]。

 

勧告(Recommendations)

・ 定期的に、%理想体重とBMIを評価し、必要に応じてカウンセリングを行わなければならない。

・ DMD患者の定期的なフォローアップケアとして、栄養士による評価も行われるべきである。

・ 嚥下を評価するには、病歴や臨床所見を検討すること、および食べる能力をさまざまな食感別に観察すること。

・窒息または嚥下困難の既往歴がある場合、嚥下障害の評価を行うべきである。

・嚥下造影(VF)を利用して誤嚥の存在を確認したり、さらに安全な嚥下法を指示したりすることもできる。

・ 経口摂取に支障があり、十分な栄養を摂取することができない場合は、栄養士の指導のもと、胃瘻チューブ留置による経腸栄養を行うことを強く薦める。

DMDの睡眠時評価(Sleep Evaluation in DMD)

DMDは、睡眠時呼吸障害および睡眠時肺胞低換気を伴う。呼吸不全の発症はとらえにくい。睡眠時低換気が起きると、特定の症状が徐々に頻度を増しながら現れるようになるが、この症状には、夜間に目覚める、昼間の傾眠、起床時の頭痛などがあり、まれに嘔吐もある。DMD患者は上気道閉塞のリスクも伴う。

睡眠時低換気をみつけるために、DMD患者にポリソムノグラフ(睡眠ポリグラフ)を行う場合、そのタイミングについてはまだ明らかにされていない。ある研究によると、睡眠時肺胞低換気は、覚醒時のPaCO245mmHgと、BE4 mmol/Lとに相関していた[4]。別の研究では、専門家が立ち会わないある検査法により、ポリソムノグラフを使用せずに在宅DMD患者の睡眠障害の検査が可能になることを示唆した[15]。家庭で簡単にできるオキシメトリーによって、睡眠時のヘモグロビン酸素飽和度の低下を検査することができる。

勧告(Recommendations)

・患者を診察するたびに、睡眠の質を確認すること、および睡眠時呼吸障害の症状の有無を調べること。

・車椅子使用に至った以後、あるいは 車椅子使用でなくても臨床上必要とされる場合は、睡眠時呼吸障害の評価を毎年行うべきである。

 

・ 可能であれば、連続的CO2モニタリングをしながらポリソムノグラフを行う方法で毎年、検査を行うのが理想的である。

・ポリソムノグラフが容易に利用できない場合は、連続的CO2モニタモニタリングをしながらパルスオキシメトリーを終夜行うことにより、夜間のガス交換について有用な所見が得られる。ただし、この場合、酸素飽和度の低下またはCO2蓄積に関連しない睡眠時呼吸障害を発見することはできない。パルスオキシメトリーは、連続的なカプノグラフほど高感度ではないが、起床時の毛細血管ガスの簡単な測定によって、CO2蓄積を示すことができる。

心臓の問題(Cardiac Involvement)

DMDにおいて心臓の問題は一般的である。心疾患は、DMD患者の死因として第二位であり、心不全による死亡は10~20%を占める[16]。拡張型心筋症によって、まず、左心室が影響を受け、次いで呼吸困難が起きたり、その他の鬱血性心不全の症状が現れたりすることがある[17、18]。一方、右心不全は、呼吸不全と肺高血圧から生じる。また、DMD患者には、心室性不整脈のリスクがある[19]。呼吸筋および末梢筋肉の筋力低下は、心不全のリスクと逆相関する傾向があることを示唆した研究があり、左心不全と呼吸不全とは、平行して起こる傾向があると示唆した研究もある[19-21]。レトロスペクティブなデータによると、デフラザコート(deflazacort)による治療を受けている小児では、心臓関連の問題が生じることがさほど多くないことが示唆されている[22]。DMD患者における鬱血性心不全に関する心臓の評価および治療は、本報告書で扱う範囲の外にある。

勧告(Recommendations)

DMD患者はすべて、遅くとも学童期(訳注:米国も日本と同じく6歳から)に達するまでに、心電図と心エコーによる年1回の定期的な心臓の評価を開始しなければならない。

マネージメント(MANAGEMENT)

気道クリアランス(Airway Clearance)

DND患者にとって、効果的な気道クリアランスは、無

 

気肺と肺炎の予防にとって重要である。不十分な気道クリアランスは呼吸不全のもとになったり、死を早めることになったりする。これとは反対に、早期に介入して気道クリアランスを改善すれば、入院を避けることや、肺炎の発生率を低下させることができる[8]。咳の有効性を評価するには、MIP(最大吸気圧)MEP(最大呼気圧)PCF(咳の最大流速)などを測定する。PCFは、気管支から分泌物を喀出する能力と直接に相関している[23]。具体的には、PCF 160 L/min 未満であることと気道クリアランスが不十分であることとが関連していた [24]。しかし、PCF がこのベースラインである160 L/min以上であっても、十分な気道クリアランスを保証するものではない。理由は、呼吸器感染時に呼吸筋機能が悪化することがあるからである[25]。このため、PCF 270L/minという値を用いて、咳介助が有効となる適応患者を特定している[8]。別の研究では、十分な流速のある有効な咳をする能力とMEP60cmH2O以上とが相関関係にあり、45cmH2O未満では有効な咳が得られなかった。パルスオキシメトリーを用いることにより、気道感染に伴う下気道での合併症を検査することができ、介護者はいつ気道クリアランス療法を集中的に行うべきかを知ることができる[8]。患者に神経筋の筋力低下がある場合、不十分な咳を克服できるようさまざまなテクニックが開発されている。

「最大強制吸気量」とは、声門を閉じて保持することができる最大の肺気量のことである。最大強制吸気量は、喉咽頭機能の筋系の強さによって影響を受ける。神経筋疾患(DMDを含む)の場合、エアスタッキング(息溜め)のトレーニングにより、肺や胸壁の可動域が改善し、結果としてMICが改善する[7]。理論上、呼気量を増加させる療法によって、介助咳をさらに有効にできることになる。

徒手的テクニック(Manual Techniques)

徒手的な咳介助では、まず、吸気の介助を行い、次いで、強制的に呼出量を増加させた呼気を行う。吸気量を増加させる方法には、舌咽頭呼吸(基本的には、患者自身が口を使って強制的に肺に空気を送る方法)、およびエアスタッキング[7](息を吐かずに吸息を何回か繰り返す方法)がある。陽圧を適用する方法もあり、その場合、アンビュバッグとマスク、間欠的陽圧換気が行える装置または人工呼吸器を用いる。吸気介助のため

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のインターフェースとして、フェイスマスク、マウスピース、気管切開チューブに直接接続する方法などがある。また、強制呼気では、患者の咳に同調させ、上腹部または胸壁を圧迫することによって呼気を増強する方法を用いる。

器械的テクニック(Mechanical techniques)

器械による強制的な吸気と呼気(Mechanical insufflator-exsufflators; MI-E)は、陽圧換気後に陰圧換気を行うことで擬似的な咳を生じさせる方法である[27,28]。 MI-Eを用いた場合とエアスタッキングや徒手的な咳介助を用いた場合とで比較したところ、MI-Eのほうが咳の最大呼気流速で優れていることが明らかになった[29]。

MI-E は、これを使用すれば、入院や気管切開の必要性を回避することができるため、PCF160 L/min前後のDMD患者にとって、きわめて重要であることが確認されており、特に、このような患者が(脊柱)側湾症を生じて徒手的な咳介助が有用でなくなった場合に重要である[8]。MI-Eに使用する装置は、有効な咳ができない神経筋疾患の小児患者42名(このうちDMD患者15名)において、耐容性良好かつ有効であった[30]。合併症として、一過性の悪心嘔気、腹部膨満、徐脈、頻脈がみられることが報告されている[28]。気管切開をしているDMD患者では、MI-E は、従来の吸引法に比べて多くの利点があり、たとえば、末梢気道の分泌物が排出できる、気管内直接吸引による粘膜外傷が回避できる、快適性が改善するなどがある[31]

分泌物の遊離装置(Mucus Mobilization Devices)

肺内軽打換気(Intrapulmonary percussive ventilation; IPV)の装置は、持続気道陽圧を増加させながら、低振幅で高周波数の波動気流を発するものである。

DMD1例を含む最近の症例集積研究で、肺の持続性硬化は、従来の方法では治療不応であるが、IPVを用いたところ、症状の消失に有効であったと報告されている[32]。胸壁に高周波数の振動を与える方法は神経筋疾患患者に使用されているが、勧告の基礎となるデータは発表されていない。気道クリアランスの装置はすべて、正常な咳の代用として使われるものではあるが、DMD患者の場合、咳介助との併用なしで単独で使用すると、有効である可能性は低い。

気管支鏡検査は、DMD患者に対して、持続性無気肺をみとめる場合に選択的に行うのが一般的であるが、有益性について、および治療法として、現在のところ立証されていない。気管支鏡検査については、非侵襲的な気道クリアランス法のいずれを行っても無効であることを確認し、かつ粘液栓(分泌物による閉塞)が疑われる場合に限り、考慮するべきである。


勧告(Recommendations)

・DMD患者に対して、気道クリアランスを改善するための戦略および気道クリアランスのテクニックを早期にかつ積極的に利用していく方法を指導すべきである。

・ 臨床経過によって気道クリアランスが難しいことが示唆された患者、PCF270L/min未満の患者、最大呼気圧(MEP)が60cmH2O未満の患者では、咳介助のテクニックを使用すること。

・コンセンサス委員会は、DMD患者に器械による強制吸気と呼気(mechanical insufflation-exsufflation; MI-E)を使用することを強く支持し、今後、MI-Eを用いたさまざまな研究を進めることを推奨する。

・ 家庭でのパルスオキシメトリーは、これを使うことによって、呼吸器疾患罹患時に気道クリアランスの効果をモニターすることができ、入院の必要性を確認するのに役立つ[8]。


呼吸筋トレーニング(Respiratory Muscle Training)

DMD患者に呼吸筋トレーニングを行う根拠は、患者に進行性病態があっても、筋肉の筋力と持久力を改善すると、将来、肺機能の維持に良い影響を与える可能性があるという仮説に基づくものである。しかし、DMD患者に対する呼吸筋トレーニングの有効性に関しては、さまざまな報告がある。筋力と持久力に相当な改善がみられたという報告もあれば、呼吸筋能力に微小または意味のない変化しかみられなかったという報告もある[33-43]。さらに、最近、運動中の筋肉にみられる一酸化窒素遊離による防御機構が発見されたが、DMD患児はこの防御機構が欠如している可能性がある[44、45]。このことから、計画に従ってトレーニングを続けていると、しだいに筋肉が損傷していく可能性がある。したがって、呼吸筋トレーニングに関しては、全面的に推奨することができず、さらなる研究を待たなければならない。


DMDの夜間非侵襲的人工呼吸療法(Noninvasive Nocturnal Ventilation in DMD)

DMD患者は、呼吸低下、中枢性無呼吸、閉塞性無呼吸、低酸素血症などの睡眠時呼吸障害のリスクが高い。これらの肺合併症の治療に非侵襲的な人工呼吸療法を行うことにより、生活の質(QOL)を向上させ、DMDに伴う疾患の発病率や早期の死亡率を低下させるであろう[64647]。

二相性陽圧発生装置(BiPAP)または人工呼吸器によって夜間の鼻マスク間欠的陽圧換気を行うことは、DMDや他の神経筋疾患における睡眠時呼吸障害および夜間の低換気に対する有効な治療法である[48-50]。閉塞性無呼吸または呼吸低下を消失させ、かつ換気および夜間の酸素飽和度を正常にするために必要な陽圧のレベルを決めるには、睡眠検査室での測定結果から求めたり、ベッドサイドで注意深いモニターと観察を行って求めたりしなければならない。患者が必要とするレベルは経時的に変化するため、鼻マスクによる間欠的陽圧換気(NIPPV)について、連続的に評価と調整を行うことが必要である[49]。DMDに対して、夜間NIPPVを行ったところ、明らかに生存率を改善し[4651]、睡眠の質、日中の傾眠、健康と自立性および日中のガス交換で改善がみとめられ、人工呼吸療法を行わない対照群と比較したところ、肺機能低下の進み方が遅くなった[646475052-54]。

NIPPVによる合併症には、眼刺激、結膜炎、皮膚潰瘍、胃膨張、フルフェイスマスクへの嘔吐などがある。顔面関連の合併症は、マスクフィッティングを定期的に評価することで避けることができる。鼻へのステロイド噴霧または送気エアーの加湿によって、鼻閉を緩和することができる。また、胸膜下気胞(ブレブ)のある26歳の非Duchenne型の筋ジストロフィー患者がNIPPVを使用していたところ、再発性気胸を生じたという報告が1例ある[55]。患者に体力がない場合、マスクの位置がずれていると、急速に重度の低酸素および高炭酸ガス血症に至る。BiPAP機器の多くはアラームが内蔵されていないため、状況に応じて、パルスオキシメトリーなどによるモニタリングを追加するとよい。

その他の療法(Other therapies)

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鼻マスクによる持続気道陽圧(CPAP)の適応は、睡眠時閉塞性無呼吸症候群患者のうち夜間の換気が正常な場合に限るため、DMD患者に有用である可能性は低い。低換気が原因または原因の一部となって、低酸素血症を生じている場合、BiPAPか従量式換気による補助を考慮するべきである。DMDにおける低酸素血症は通常、低換気によるものであるため、換気補助と併用しない酸素投与は避けなければならない。DMD患者に陰圧式人工呼吸器を用いると、上気道閉塞を起こす可能性があり、この原因は吸気相と声帯外転との協調性が欠如しているためと思われる[52、56]


勧告(Recommendations)

・患者に使用する人工呼吸について話し合う際は、患者本人、介護者および医療チームがともに参加するべきである。

・ 在宅DMD患者の人工呼吸が適正に行われているかを評価するために、持続的CO2モニタリングを行いながらポリソムノグラフを行うこと。ポリソムノグラフが容易に使用できない場合、連続的CO2モニタリングを行いながらパルスオキシメトリーを終夜行うことにより、夜間のガス交換をモニターすることができる。CO2モニタリングが利用不可の場合は、パルスオキシメトリーを終夜用いることにより、夜間のヘモグロビン酸素飽和度の低下を検出する。

オキシメトリーは単に、換気に関する間接的な情報のみを提供するものであり、換気補助の必要性を判断するために他によい方法が利用できない場合に限り、使用するべきである。

DMDの病期に合った定期的な再評価の計画を立てること。フォローアップの訪問では、必ず覚醒時の低換気の有無について、モニタリングを行うべきであり、このモニタリングにより、24時間の人工呼吸の必要性が確認できる。

・DMD患者では、睡眠関連の上気道閉塞および慢性呼吸不全を治療する場合は、NIPPVを使用すること。

・ 陰圧式人工呼吸器をDMD患者に用いる場合は、上気道閉塞および低酸素血症を惹起するリスクを伴うため、慎重に使用するべきである。

・ 酸素投与は、換気補助との併用なしでは睡眠関連の低換気の治療に使用してはならない。

 

昼間の非侵襲的人工呼吸療法(Daytime Noninvasive Ventilation)

DMD患者は、年月の経過とともに、持続的低換気を呈する病期へと進行し、やがて24時間の人工呼吸が必要となってくる。この場合、DMD患者は従来の方法として、気管切開によって持続的な換気補助を受けているが、気管切開をせずとも、非侵襲的方法を用いても、有効な換気補助を行うことができる。

最も一般的に使用される非侵襲的方法は、マウスピースによる間欠的陽圧換気である。この方法では、市販、特別注文製または一部調整したマウスピースを使用する。このマウスピースを患者の口付近に留まるように設置するが、その方法として、屈曲性のある固定管を取り付け車椅子に固定したり、調節・補助換気式の人工呼吸器に固定したりする[515758]。患者は、唇でマウスピースを挟み、一定の間隔で吸気する。この方法で、平均FVC 0.6L(予測値の5%)まで低下したDMD患者が8年以上も使用しており、成功している例がある[4758-60]。マウスピースによる人工呼吸は、食事や会話の妨げにならず、良好に受け入れられる。

その他にも昼間の非侵襲的換気療法を行う方法がある。舌咽頭呼吸という方法では、口腔周囲の筋を使用して、少量の空気を6回以上「飲み込む(gulp)」ことで、1回換気量に相当する空気を肺に送り込む。このテクニックは、人工呼吸器からの短時間の離脱を可能にし、呼吸器の故障時にも役立つ[4757]。間欠的腹圧換気(またはニューモベルト)によるものは、膨張する袋を腹部の上に置き、この袋を従来の携帯型人工呼吸器に接続して行う方法である。患者には座位をとってもらい、この状態で腹部上の袋が膨張すると、腹部を圧迫して強制的に呼気を行なわせる。次に、引き続いて起こる横隔膜の受動的な下降と胸肋骨の外方への弾性拡張とによって、吸気が起こる。しかし、この方法は、側彎症や過度の肥満の場合は有用とならないことがある[6061]。また、キュイラス(胸当て)を用いた陰圧式人工呼吸器は、現行モデルは携帯型ではないが、これも昼間の人工呼吸に使用することができる[5158]。


勧告(Recommendations)

・覚醒時のPCO2値が50mmHg以上の場合(呼吸機能の

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ルーチン評価の項を参照)あるいは覚醒時のヘモグロビン酸素飽和度<92%が持続する場合は、昼間の人工呼吸を考慮すること。

・ 専門知識・技術を備えたセンターでは、昼間の非侵襲的換気療法の方法として、マウスピースによるIPPVまたは他の非侵襲的方法を考慮すること。気管切開は、非侵襲的な換気療法が禁忌の場合または患者に拒否された場合に考慮すること。

・ 非侵襲的人工呼吸療法を受けている患者に対して、酸素飽和度や終末呼気炭酸ガス分圧などについて非侵襲的な検査を定期的に(少なくとも年1) 行って、ガス交換を確認するべきである。


持続的侵襲的人工呼吸療法(Continuous Invasive Ventilation)

DMD患者の場合、気管切開によって昼間と夜間の換気補助を行うことがあるが、気管切開の適応は、他のインターフェースでは耐えることが困難な場合、および口唇の運動や頚部のコントロールが不十分なため、昼間にマウスピースを使用できない場合である。気管切開による換気補助の利点は、呼吸器と患者の間の一層確実なインターフェースであること、肺実質疾患患者または胸郭コンプライアンスが(たとえば側彎症に続発して)重度の低下をきたした患者に対して高めの換気圧で送気できること、呼吸器感染時には直接、気管支から分泌物を吸引できることなどがある。しかし、気管切開によってさまざまな合併症を起こす可能性があり、たとえば、分泌物の産生が増加すること、嚥下を困難にして誤嚥のリスクが高くなること、気道の防御機能を通過することで感染のリスクが高くなることなどの合併症がある[62]。痰詰まりによる気道閉塞のリスクがある[63]。気管切開は口頭でのコミュニケーションを障害するというのが従来の認識である。しかし、比較的細い気管切開チューブを用いて上気道周囲の「リーク」を許容し、スピーキングバルブを使用すると、患者の多くは、口頭でのコミュニケーションができるようになるであろう[64]。リーク機能によって生じる1回換気量の減少は、1回換気量を増加することによって補正することができる[65]。多くの患者は、気管切開による外観上の問題とコミュニケーションへの潜在的悪影響について危惧するため、持続的人工呼吸療法に

 
 

勧告(Recommendations)

・気管切開は、非侵襲的人工呼吸が禁忌または患者に拒否された場合または非侵襲的人工呼吸療法が喉咽頭機能の重度の低下や不全によって適応ではない場合に考慮するべきである。

・適切な教育が患者と家族に提供されたならば、 気管切開を行なうか否かの選択では、患者の自由意思を尊重しなければならない。

・ 気管切開患者にはパルスオキシメトリーによる十分なモニタリングを行い、痰詰まり(粘液栓)を検出していかなくてはならない[63]。


DMDの側彎症(Scoliosis in DMD)

ほとんどのDMD患者は、自立歩行喪失後の10代初期から側彎をきたし始める[67-69]。側彎度が30度に至ると、側彎は年齢と成長とともに進行する[68、70-72]。DMDの側彎症は、改善治療を行わないでいると、入院率の上昇およびQOLの低下をもたらすこととなる。

外科的介入の最適期は、肺機能が良好であり、かつ心筋症の程度が重度に至る以前、すなわち麻酔下で不整脈のリスクを伴うようになる前の時期がよい。X線像計測のCobb角が30~50度である場合、通常、手術が計画される[68、73、74]。

肺機能に関しては、手術の絶対的禁忌はなく、FVCが予測値の20%である患者でも手術結果は良好であるという報告がある[75、76]。回復の予後がきわめて良好なのは、FVC > 4O%の場合であると思われる[77]。一方、側彎症が急速に進行して予後不良となる指標として、絶対VC < 1900mlが使用される[78]睡眠検査または夜間のオキシメトリーは、術前の計画に役に立つ。これらの検査で異常がみとめられたら、患者は、術前から夜間の非侵襲的人工呼吸療法を開始し、術後は抜管して非侵襲的人工呼吸療法を行うという方法をとることができる。手術の前に患者の心臓、栄養、呼吸の状態がそれぞれ最適化されていることが重要である。術後の疼痛管理では、気道クリアランスを促進し、呼吸抑制を最小限にするような方法で適切に行わなければならない。

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勧告(Recommendations)

・外科的介入を考慮に入れて、呼吸器専門医と心臓病専門医とによって、遅くとも手術の2ヶ月前に術前評価を行うこと。

・ 睡眠時の肺胞低換気について術前に評価すること。

・術後ケアでは、積極的な気道クリアランスと呼吸補助が必須である。呼吸器専門医と心臓病専門医が患者のフォローにあたり、術後の呼吸管理を最適に行って合併症を予防するべきである。


DMDマネージメントにおけるコルチコイド

(Corticosteroids in the Management of DMD)

経口のコルチコイドが、DMD患者において筋の悪化を遅らせ、筋質量を増大させることがわかっている[79-81]。コルチコイドが有益である可能性があるにもかかわらず、その使用については議論の余地があり、一様に推奨されていない。大部分の研究において、経口のステロイド治療は5~15歳の間、平均して約8歳から開始していた。

プレドニゾンは、DMDにおいて最も研究されたステロイドである[7982-89]。プレドニゾンのオキサゾリン誘導体であるデフラザコートは、プレドニゾン類似の効果を有し、プレドニゾンより副作用が少ない可能性があることが示された[90-94]。デフラザコートの投与を受けている患者は、歩行を維持する期間がより長く、有意に肺機能が保持されている[94]。



勧告(Recommendations)

・肺に対する経口ステロイドの潜在的有益性を確認し、さらに明確化するために今後の研究が必要である。

・ 肺機能を保持するために、経口ステロイド療法の開始について決断する際は、神経筋の専門家ならびに集学的ケアチームのメンバーと家族が関与して共同で結論を出すべきである。


Duchenne型筋ジストロフィーの患者教育(Patient Education in Duchenne Muscular Dystrophy)

患者教育のゴールは、患者、家族、医療提供者らが共同参加でマネージメントを行い、ケアに関わることで

 
 

ある。彼らの教育的戦略は、発達に応じた慎重な内容であり、かつ現在の病期に対して適切なものであるようにすべきである。[95、96]。教育は、診断後できるだけ早く開始するべきであり、ケアの過程で重要な要素として継続していくべきである(表1)。DMDの呼吸器合併症に関して、患者/家族教育が目指すゴールは次のとおりである。

1.DMDの自然歴を理解する。

2.肺合併症の早期の徴候と症状を認識する。

3. 気道クリアランスと呼吸不全に対する治療オプションについて理解し、情報を得た上で治療法を選択する。話し合う際には、オプションとして、非侵襲的人工呼吸と気管切開による人工呼吸の双方を示すべきである。それぞれの人工呼吸オプションについて、リスク、利点、QOLの問題を十分に検討するべきである。

4.呼吸器合併症の評価と管理の方法について、先行的ガイダンスを提供すること。

5.使用する医療装置について、その役割を理解し、有効に使いこなすための十分な技術を習得すること。

6.終末期ケアについて理解し、十分な情報を得て結論を出すこと。


家族が情報を得る資料として、次のものが優れている。パンフレット「Breathe Easy Respiratory Care for Children with Muscular Dystrophy」。ビデオ「Breathe Easy」[97]。インターネット・ウェブ・サイト「Muscular Dystrophy Associationhttp//www.mdausa.org)」、「Parent Project Muscular Dystrophyhttp//www.parentprojectmd.org)」。


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 長期ケアの問題(Long-Term Care Issues)  
   

いくつかの研究によると、高炭酸ガス血症をきたしたDMD患者において、夜間または24時間の人工呼吸が生存率を改善することが示唆されている[46, 98-100]。

しかし、これらの研究のいずれもプロスペクティブな比較試験ではない。一方、すべてDMD患者を対象として調査したデンマークのある大規模研究では、人工呼吸が散発的にしか使われなかった時代と比較して、人工呼吸が日常的に使用される時代では、死亡率が有意に

低下し、15年生存率または20年生存率が上昇したことが示された[98]。また、1991年以前には在宅人工呼吸による治療を行っていなかったある大きな施設で行った別の調査では、1990年以降の生存年数について比較したところ、長期の人工呼吸を拒否したDMD患者では、19.29歳(95% CI 18.61 19.97 歳)であったが、長期の人工呼吸を選択した患者では、25.3歳(95% CI 23.11, 26.58歳)であった[99]。しかし、これらの分析を利用する場合、人工呼吸療法の有益性とDMD患者のケアの改善点とを因子として区別することは不可能である。すなわち、DMD患者のケアの改善点とは、気道のためのテクニックを積極的に使用することや神経筋疾患患者のケアのために優れたセンターを地域に開発することなどであるが、これらの影響を区別することができない[98]。

前述の報告は、呼吸不全が確定または切迫している患者に対して、人工呼吸療法が果たす役割を裏付けるものであるが、予防的な役割を立証するデータはない。多施設共同のプロスペクティブなある比較試験では、炭酸ガスは正常で、FVCは予測値の20~50%であるDMD患者を、夜間非侵襲的人工呼吸療法を6時間以上行う群と、まったく行わない群に無作為に分けた[101]。NIPPVを行った35名中15名はプロトコルに従っていなかったが、「予防的な」鼻マスクによる換気療法を行っている群で生存率が有意に低下した。このことから、予防を目的としたNIPPVは避けるべきであると結論付ける。また、NIPPVの使用には、誤った安全感から、モニタリングが怠り気味になることが関連し、これが使用者の死亡率上昇をもたらしたと推測する。

長期人工呼吸が、DMD患者や家族にとって、QOL上どのような影響があるか簡単に示すことはできない。長期人工呼吸を選択したDMD患者を調査した研究によると、長期人工呼吸は、一般的に受け入れられる[102103]、またはQOLを改善すると報告されている[104105]。人工呼吸療法は基礎疾患の進行を阻止するものではないため、DMDが進行したことに関連することがら、すなわち進行に伴う不満や日常における機能的な影響と、人工呼吸療法を導入したことに関連することがら、すなわち効果や家族のストレスとを区別することは困難であった[102]。しかし、医師および他の医療従事者は、人工呼吸器依存のDMD患者が認識する

 

QOLについて、著しく低く評価していることは明らかである[104]。また、このように否定的な認識をもっているため、一部の医師はオプションとしての人工呼吸療法を提供することができない、または否定的に提供する[10]。重要なのは、人工呼吸療法について意味のある議論ができることを患者が高く評価したことであり、疾患の経過中、繰り返しこの価値を見出していたということである[103]。しかし、医療従事者は、このような機会を逸することや効果的に利用しないことが多い[106]。

DMD患者は、呼吸ケアの進歩によって、成人になっても生存している。このことから、家族は、熟練した医師を見つけなければならないという困難な状況に置かれることになる。この場合の医師は、プライマリーケアを引き継ぐことができる技能をもつ医師、または人工呼吸器などの器械に依存する患者の専門的ケアを引き継ぐことができる技能を有する医師である。



 
勧告(Recommendations)   
 ・人工呼吸療法について、話し合う機会をもつべきであり、時期としては人工呼吸療法の必要性が明らかになるかなり以前から始めるべきである。また、代替のオプションのことを必ず話すようにし、基礎疾患の進行に応じて繰り返し話し合いを行っていくべきである。

・ 器械に依存する患者のケアに関することがらは、成人呼吸器科の医師、成人神経科の医師、理学療法医、睡眠医療専門医、および内科医を指導するなかでプログラムに組み込まれるべきである。

・神経筋疾患の進行した成人患者のケアについて、専門的知識・技術を有する呼吸器科医、理学療法医および内科医を各地域に特定すべきである。これにより、成人への移行期に患者のケアを支援していくべきである。

 
 終末期ケア(End of Life Care)  

進行性慢性疾患患者の終末期ケアでは、患者と家族のQOLの向上に焦点を当てる。集学的ア プローチが必要であり、プライマリーケア医、専門医、ホスピスまたは緩和ケアの専門家、 ソーシャルワーカー、精神的ケアの専門家、家族、およびその他文化的または宗教的に患者 のバックグラウンドに応じた適切な人々の関与が必要である[107-110]。

筋ジストロフィー患者に対する終末期ケアのゴールは、以下のとおりである。

1.苦痛を引き起こす病態(疼痛、呼吸困難)を治療する(緩和ケア)。

2.患者と家族の心理社会的および精神的なニーズについて注意を払うこと。

3. 検査と治療について、患者と家族の選択を尊重すること

 
   
   
 
 
 
 



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