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 「小児看護向けプレパレーション教材制作の紹介」
小さな子どもへの、MACとNPPVの導入
 京都大学医学研究科人間健康科学系専攻 成育看護学分野

         鈴木 真知子

NPPVやMAC導入の絵本と絵カード

はじめに

 以前、本雑誌の特集「教員だからこそできる地域貢献」で、筆者が行ってきた人工呼吸など医療依存度の高い長期療養児者の在宅支援活動を紹介した1)。今、人工呼吸の世界では、気管内挿管や気管切開による従来の人工呼吸器を装着するにあたって行われる侵襲的な治療法ではない非侵襲的陽圧換気療法(noninvasive positive pressure ventilation : NPPV)の導入により変化の波が生じはじめている。NPPVの適応は、慢性呼吸不全の症状改善や生命維持だけではなく、ICUを含む急性期、そして緩和ケアにまで広がってきているのである。NPPVはまた、非侵襲的で利用者の負担が少なく、これまでの人工呼吸法に比べてQOLの高さや、リスクの低さを兼ね備えているが、その実践においては、きめ細やかなケアが成否のカギを握るとされている2)

 一方、小児看護の領域では、1994年に子どもの権利条約が批准された後、病院における子どもの権利に関する意識が高まり始め、①子どもの意思の尊重、②子どもの潜在的に持っている対処能力を引き出す、③子どもが頑張ったと実感できるような関わりや子どもの自己肯定感を高め、健全な心の発達を支援する、などの効果が期待できるケアの一つとして、プレパレーションの重要性が注目されている3)

 そこで、筆者は子どもの納得と協力が、安全で効果的な乳幼児への器械による咳介助(Mechanically assisted coughing : MAC)やNPPVの導入には重要であると考え、子ども向けのプレパレーション教材として、絵本と絵カードをセットで制作した。本稿では、その制作を考えるに至った取り組みの経緯などを紹介し、教育・研究と実践との新たな協働の可能性を探りたい。

:パンフレットダウンロードできます。
お問い合せは・注文は:鈴木先生まで
 E-mail:msuzuki@hs.med.kyoto-u.ac.jp へお願いします。
1500円+TACです。
■絵カードは紙芝居の様に、裏に説明文が記載されています。
 他に絵本も遊びながら学べる様にセットになっています。
 
 
 
 
 
 
 
 
 ■この様にMACとNPPVの事が判りやすく絵と、裏には解説文とで構成されています。近々英語でも出版される予定です。
 
 
 

取り組みの経緯

 筆者は、先に述べたように人工呼吸など生涯にわたり医療を必要とする長期療養児の退院支援や在宅療養継続期における支援などを、子どもが入院している病院や自宅へ行き個別に行っている。その様子が写真の新聞掲載記事で紹介された。また、地域全体を対象とした講演会やケア技術講習会などの事業を行い、それらより、共通に浮かび上がった課題を新聞やテレビなどメディアを通じ社会に発信する(2008年1月NHK総合テレビ「おはよう日本」で、小児在宅療養における訪問看護を中心とした制度とその地域格差をテーマに15分間の特集が報道された)と共に、解決に向けた取り組みを研究的に検討している。本邦におけるNPPVの第一人者である八雲病院の石川悠加先生やPTの三浦利彦先生とは、会の講師としてご協力いただいたことがきっかけとなり、患者さんの呼吸ケアやNPPVのことなどでその後もご指導をいただいている。2005年7月には、勇美記念財団から助成を得て石川悠加先生と一緒にNPPVの世界的権威者である米国のJohn R. Bach教授のもとで調査し、日本との比較から長期療養児への在宅支援のあり方を検討した4)。このような背景のもと、支援をしていた子どもに次のような出来事が生じた。その事例は、脊髄性筋萎縮症(Spinal muscular atrophy : SMA)1型、3歳で気管切開による24時間の人工呼吸管理を自宅で行っていた。在宅後2年目であり、頻回に痰を吸引するが十分に吸引しきれず、肺炎による入退院を繰り返すようになっていた。在宅に移行する前、MACの導入を試みたが、子どもが激しく泣くなどしてうまくいかず断念したという経験があった。しかし、年齢も3歳になり、MACの高い効果を他の患者仲間からも聞き、家族はカフアシストの導入によるMACの効果に強い期待を寄せていた。カフアシストは高価であり、助成をしている自治体は限られていた)。制度を変えるよう自治体を動かすには、その効果と必要性を関係者に認めてもらわねばならなかった。支援者はそのような家族の思いを汲みいれ、制度改正に向けた取り組みの一貫として関係者を自宅に集め、子どもにカフアシストの実装を試みる企画をした。しかし、子どもの安全性や突然に器械の大きな作動音がし、肺に強い圧で空気が送り込まれたあと、急激にその空気が押し出される体験を強いられる子どもの気持ちにまでは配慮が及んでいなかった。他の子どもにも同じような状況が認められ、筆者は導入を成功に導くためにも子どもと共に、家族や医療関係者にも幼い子どもへの導入法が分かる絵本の制作の必要性を強く認識するに至ったのである。そして、このことを三浦利彦先生や石川悠加先生にも相談し、イラストを就労支援の意味から八雲病院に入院しNPPV使用中の患者さんに書いていただいた。また、絵本の編集を引き受けてくださった医学書院の方々のご好意により、絵本としての体裁が整い、いち早く完成させることができた。そして、筆者はSMA家族の会の医療アドバイザーをさせていただいているので、SMA家族の会を基盤にファイザー株式会社から一部助成金を得て制作した。

絵本と絵カードの概要

 絵本と絵カードの2種類は、子どもの好みや使用する状況により適宜選択して用いるようにと考えた。特に、絵本は子どもが自分で見たり読んだりしやすいようひらがなを用い、分かりやすい言葉にした。絵カードは家族や医療職者が読んで聞かせられるようにと考え、裏にはその絵に応じた基本的な説明文を書き入れた。そして、写真に登場するななちゃんのお母様には絵本の感想などを、家族の体験を踏まえて書いていただいた。また、絵カードには、MACNPPVの簡単な説明文を加えた。そうすることで、子どものみならず、初めてMACNPPVの導入を考えようとしている大人の方々やご家族、医療者にも役立つと考えた。

どんなに障害が重くてもまた、幼い子どもであってもその子なりの力があり、何度も語りかけ、お話をし、説明してあげること、そのことが安全で効果的な導入の成功につながると思う。

 

教育・研究と実践との連携

 看護が実践の科学であると言われているように、筆者は特に医療依存度の高い長期療養児と家族を支援する方略は、画一的な方法(一定の手順を適用する)ではなく、私達が行っていくべき看護とは何かを実践しながら考え、修正しながら理想に近づけていく真摯な努力から生み出されていくものと考えている。特定の領域に経験知を持つ大学の教員が、実践現場で働くさまざまな専門職者と協働し、直接的に子どもと家族を支援しながら、課題を見出し、より良いケア法を提案することで、ケアの質を高めていけると思う。また、そのような取り組みが、座学では学べない学びを学生に提供していけると考えている。

 MACNPPVの導入の有無にかかわらず、是非、多くの方々に絵本と絵カードのセットをご覧いただき、当事者の気持ちを考えながら行う医療処置の重要性を考える機会にしていただきたい。また、重度の障害のある子ども達への説明や指導法を考える機会になれば嬉しい。そして、何よりもMACNPPVが広く普及することを心より願っている。

(絵本と絵カードの完成を応援してくださった皆様に深謝いたします。                   平成21年9月)

 
 文献

1)鈴木真知子:長期療養児の在宅ケア支援システムを構築して,看護教育,475),389-3932006

2)石川悠加編:JJNスペシャル これからの人工呼吸 NPPVのすべて,医学書院,2008

3)蝦名美智子:医療を受ける子どもへのかかわり方〔子どもと親へのプレパレーションの実践普及〕研究班,平成1415年報告書,2005

4)鈴木真知子:小児の自律に向けた在宅人工呼吸療養支援のあり方の検討-中・ 四国地方を中心とした実態とニュージャージー州におけるモデルケースによる検討-,日本小児保健研究,662),2007

5)豊島光雄:在宅でのカフマシーンにかかる経費の助成,難病と在宅ケア,101),54-552004

 
■京都新聞でナナちゃんの絵本が紹介されました。 
 
 
 
 
 
 
 


小児の自律に向けた在宅人工呼吸療養支援のあり方の検討と実態をニュージャージ州において石川先生とご一緒の様子.
NPPV支援ネットワーク機構|在宅人工呼吸検討委員会|E-mail:info@nppv.org
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